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『ただのいぬ。』が証明した「かわいい」を超える犬写真

2017.11.15

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『ただのいぬ。』が証明した「かわいい」を超える犬写真

服部貴康(はっとりたかやす)カメラマン

2001年、週刊誌のグラビア記事掲載をきっかけに、話題が話題を呼び殺処分ゼロ運動の先駆けともなった『ただのいぬ。』プロジェクト。
人々の心を強く打ち、社会を動かしたモノクロ写真は、一人の無名カメラマンによる、「かわいい」を狙わないものだった。

目次
かわいいよりも、かわいそうよりも伝わる写真がある
愛犬家の心に刺さった『ただのいぬ。』の意味
あたり前のことをあるがままに撮る大切さ
『ただのいぬ。』に学ぶ、写真の価値

かわいいよりもかわいそうよりも見る人に伝わる写真がある

犬と暮らす人なら誰でも「かわいい!」と声に出しながら、シャッターを切ったことがあるだろう。もしくはカメラ目線の写真を収めるために思い通りにならない愛犬と「マテ!」「オスワリ!」などと大きな声で格闘するなんてことも、みんな一度は経験することだろう。もちろんそうした“かわいい”写真、“いいコ”の写真は犬写真の一つの正解だ。しかし今から15年ほど前。犬を室内で飼うブームにわいている日本で、愛犬家たちの心を強く揺さぶったモノクロ写真『ただのいぬ。』は、かわいさも、目線も狙わないものだった。

「はじまりは滋賀県の動物愛護センターに100頭あまりの子が収容されたという事実を伝える週刊誌のグラビア企画でしたから、正直その後、これほど広がりを持つ活動につながるなんて、想像もしていなかったんです。ただボクは、これから殺処分されてしまうかもしれない不運な犬たちというイメージではなくて、そこにいる犬、そこにあるシーンをそのまま撮ることだけを大事にした。かわいいとかかわいそうというのは人間の勝手な主観です。そこにとらわれず、目の前にいる犬の存在感と魅力をあるがまま、最大限に引き出すことを考えていました。『ただのいぬ。プロジェクト』は撮るものの本質をストレートに伝え、見る人に感じ方や考え方をゆだねるドキュメンタリー写真を基本とした活動なんです」

そう語るのは、このモノクロ写真を撮影した服部貴康さん。今でこそ殺処分ゼロが各自治体のスローガンとなっているが、当時はまだ捨てられる犬の実態すら社会にまだあまり知られていなかった時代。週刊誌に掲載されたこれらの写真と記事は大反響を呼んだ。週刊誌として異例の二週連続グラビアを飾るのを皮切りに、写真集の発売も決定。2005年には世田谷文化生活情報センターで『ただのいぬ。』写真展が開催されると、小さな会場にもかかわらず異例の5,000人を動員した。

服部貴康(はっとりたかやす)カメラマン

作品写真

愛犬家なら知っておきたい『ただのいぬ。』に込められた意味

『ただのいぬ。』というネーミングから誰もが想像する一つ目の意味は「動物愛護センターに保護された犬の一部は“無料=タダ”で譲渡されていく」ということ。しかし愛犬家の琴線に触れたのは、そうした事実からなる部分ではなく、もう一つの意味の方だ。
「被写体となっているのは捨て犬や迷い犬ではあるんですが、このコたちもごく普通の犬=“ただ”の犬だって。もしかしたら昨日までは家庭犬だったコたちなんだって、そんな意味も、『ただのいぬ。』には込められています。このプロジェクトでは、譲渡対象になる犬を中心に作品を発表しましたが、譲渡対象になるには生後三カ月未満で健康なことが条件でした。つまり、譲渡犬は選ばれし存在で、選ばれなかった残り9割の犬は殺処分されてしまいます。それらの犬たちを等しく撮影することで、誰が見てもかわいい犬しか譲渡されないという残酷な現実が、逆にあぶり出されていったんだと思います」

どんな命も平等であり、しかしその扱いは必ずしも平等ではない。社会問題的に『ただのいぬ。』のメッセージをくみ取ればそうなるのだろうが、服部さんの写真には、あくまで平等に、それぞれの犬のあるがままが写っている。そのギャップが、見るものの心に刺さったのだ。

作品写真

必ずしも期待に応えなくていい当たり前のことを表現する大切さ

そもそも服部さんが「あるがまま」の魅力に気づいたのは、学生時代のころ。カメラを趣味にしていた先輩の影響で写真を撮り始め、最初に興味を抱いたのは報道写真だった。
「先輩が現地にベルリンの壁の崩壊を現地に撮りに行っていて、その写真を見たときに、衝撃を受けました。写真という方法なら、ニュースでしか知らない世界を、自分の手で人に伝えることができる。自分もそんな写真を撮ってみたい、そう思うようになったんです」

そうして少しずつドキュメンタリーフォトの世界に足を踏み入れ、世界を代表する国際的な報道写真家のグループ『マグナムフォト』への憧れもあって、アイルランドや内戦終了間もないユーゴスラビアへと長期撮影へ。ところがそこで服部さんははっと気付いたという。
「そこで生活する人々の暮らしや文化とか、どこへ行っても僕が撮っているのって、何気ない場面だったんですよね。ただそれで、当たり前のことを当たり前のように撮るという表現方法がボクは好きなんだとわかったんです」

作品写真

『ただのいぬ。』に学ぶ飼い主が信じるべき写真の価値

「ボクにとって写真って不思議なものなんです。あんまり肩ひじ張って狙ってしまうと、それでは評価されなかったり。逆に、ただただ純粋になったら、予期せぬ反応をもらえたり。写真は正直で伝わりやすいものだから、その可能性は強大なのでしょうね」あるがままを大事にする服部さんが信じているのは、写真は伝わるということ。ともすると犬の写真は、「かわいい」や「ステキ」、「賢い」や「すごい!」を狙ってチカラが入ってしまいがちだ。しかし服部さんが『ただのいぬ。』で示したのは、特別な状況でなくても、日々の暮らしの中の何気ない瞬間に、人の心を動かす写真は無数に存在するということ。常に人とともにある犬という存在がドキュメンタリーの対象としても純粋に素晴らしいということなのだ。

では、愛犬にとってのドキュメンタリーとはなんだろうか。朝何時に、どんなテンションで起こしにくる? 「散歩」という声に、どんな顔で反応し、留守番中は、どこでどんな格好で寝てる? 帰ったときのお迎えは? あなたの好きな愛犬のしぐさは? カラダのなかで好きなところは? 残しておきたい幸せな時間は? それは、飼い主にとって本当に残したい写真にも通ずるのではないかと思う。

「写真には、ありのままを映し出せるっていう、文章や絵にはないチカラがあるんです」15年以上経ついまでも現在動物保護活動にかかわる人にとって心の指針であり続けている『ただのいぬ。』だが、その理由を写真のチカラだと語る服部さん。もしそれが本当なのだとしたら、愛犬家なら誰もがその言葉を信じてみたくなるはずだ。

愛犬のこと。愛犬のいた時間。そのすべてを、あるがままに残したい。
それこそが、すべての愛犬家に共通の願いなのだから。

作品写真

服部貴康(はっとりたかやす)カメラマン

1970年、愛知県生まれ。大学時代より独学で写真を学び、雑誌専属カメラマンを経て、現在はフリーで活動している。2001年、保健所や動物愛護センターに収容され、飼い主が迎えに来なかった犬たちを撮る「ただのいぬ。プロジェクト」を始動。クリエイテイブディレクターの小山奈々子とともに、『ただのいぬ。』(プエブックス刊)を発刊するほか、全国で展示会を行う。

【Instagram】@takayasuhattori83
【Facebook】@Takayasu Hattori
【Web】http://takayasuhattori.com/

服部貴康(はっとりたかやす)カメラマン